金がない。というか金があってもたぶん払えない。
死ぬ前に持っていた向こうの通貨は宝石に変わっていた。 それに宿代の支払いは恐らく商取引に該当するだろう。(・・・どうすんだこれ?宿屋もだが食事や道具の補充などあらゆる支払いができないってことだよな?・・・物々交換?宿代や食事代の支払いを?食事はともかく宿泊は物じゃないよな。家自体を交換して貰うことはできるかもしれないが、今の持ち物じゃ流石に足りないだろう。)
考えれば考えるほど今後に不安が募っていくが、現状通貨を得る方法がない以上できることを試してみるしかないか。
そう考えて食堂兼宿屋となっている建物に入る。「いらっしゃい。外のお客さんとは珍しいな」
中に入ると主人と思われる男が声を掛けてくる。
「あ、あぁ。食事と宿を頼みたいんですが」
「1泊20リム、食事付きなら30リムだ」 「あ~その、支払いなんだがこれでお願いできますか?」そう言いつつ、小粒の宝石を出してみる。
「いや、そんな物出されてもな」
「そ、そうですか。俺は商人なんですが、さっき門番の人にこの村では薬が不足気味だと聞きました。そこで、この薬では宿代の代わりにはならないでしょうか?」そういって今度は何種類かの薬を出してみる。
「いや、薬が不足気味なのは確かなんだが・・・やはり現金で払ってもらわないと困るな」
先ほどの宝石よりかなり興味は引けたようだがやはり結果はダメだった。
物での支払いを拒否しているのか、スキルの影響で拒否されているのか判断が難しいが、間があったことから考えると後者の可能性の方が高そうな気がする。 仕方がないので、別の方法を試してみることにする。「分かりました。。変なことを聞いてすみません。これは詫びとして取っておいてください」
そう言って主人の目線から欲していたと思われる薬を渡す。
「え?いいのか?いやでも流石に悪いような・・・」
「いえいえ。当てができたらまた来ます」そう言ってそのまま宿屋を後にした。
もちろん意味もなくタダで薬を渡したわけではない。 主人に先に利益を齎すことで好感度を上げておき、相手の好意で1泊泊めて貰えないかと考えたのだ。最悪食堂の隅を借りれるだけでも外で野宿よりはマシだろう。 何だか商売の裏道や抜け道を探しているようで多少の罪悪感があるが身の安全には代えられない。 まぁ、これについてはすぐ戻るわけにもいかないので一旦保留にして道具屋に向かうことにした。「いらっしゃい」
店に入ると店主に声を掛けられる。
商品は農具や大工道具が多いようだ。ぱっと見では目当ての品は見つからなかった。「道具袋とランタンあと何か武器になるようなものとテントはないでしょうか?」
道具袋は1つでは容量不足になると思われるためだ。武器などもそうだが、今の商品は主に薬なのだ。これが農作物などになった場合、大した量は持てなくなる。これも今後の課題だな。
「うちは村で扱うようなものが主なんだけどね。残念ながらテントは無いよ。あとは・・・ちょっと待ってな」
そう言って店主は裏に回った。少しすると商品を持って戻ってくる。
「悪いがどれもこの1点しかないよ。買いに来る客なんて滅多にいないからね」
近づいて商品を見せてもらう。武器として持ってきたのは短剣だった。
いずれも品質に問題はなさそうだ。「ランタンのオイルは?」
「1日分ならここで入れてやるよ。予備が欲しければ雑貨屋に行ってくれ」 「なるほど。代金はいくらになりますか?」 「袋が60リム、ランタンが80リム、短剣は100リムだ」ランタンの方は少し高い気がするが、この辺だとガラスは希少なのかもしれない。必要なものだし仕方ないか。
「なるほど。これで取引できますか?」
そういって宿屋で見せたのと同様に宝石を出してみる。
「う~ん・・・まぁ、いいかね」
店主は渋い顔でそう返してきた。
良かった。物々交換を持ちかけること自体に違和感は持たれてなさそうだ。 だが、それなら渋い顔をしているのは?・・・そうか。宝石はこの村では使い道がない。宝石自体が好きな人でもなければ換金の手間が掛かるだけだろう。 つまり需要が低いから嫌がられているのか。 だが、その割には価値は割と適正に評価されている気がする。 今出した宝石は標準的な価値では320リムほどのものだった。「いや、すみません。こちらの薬のほうが良いでしょうか?」
試しに先ほどと同様にいくつかの薬を出してみる。
「へぇ、あんた商人だったのかい。そうだね・・・これとこれでなら交換で良いよ」
そう言って店主が手にしたのは価値にして120リム程度のものだった。
待て待て、確かに需要はあるんだろうが、倍の価値で取引が成立するのは都合が良すぎないか? それほどに需要による交換レートの比重が大きいのだろうか。まさか初対面で好感度が高いわけもないし・・・。 だが良い方法に気づけた。こちらからは複数提示して相手の望むものを交換対象にして貰えばかなり有利に交換が成立できる。「どうかしたかい?」
思わず考え込んでいると店主から怪訝な顔をされてしまった。
「いえ、なんでも。あとできれば何か仕入れたいのですが、この村に特産品の様なものはないでしょうか?」
「特産品かい?いやぁ、そんな特別なものはないねぇ。しいて言えば雑貨屋の店主が趣味でやってる木彫り細工くらいかね」 「木彫り細工?」 「あぁ。結構良い出来でロンデールの町から偶に買い付けに来る商人がいるくらいだ」 「それはすごいですね。ちなみにロンデールって町はどっちの方角にあるんですか?」 「ロンデールかい?街道を北へ向かって分かれ道を東に行った先だよ」町の情報まで手に入ったのはラッキーだった。特産品もあるみたいだし、良さそうなものがあれば買い付けてロンデールに行くのもいいかもしれない。
「分かりました。ありがとう。」
買ったものを道具袋に纏めて店を出る。
良い情報も貰ったし次は雑貨屋に行ってみるか。「いらっしゃい。初めてのお客さんだね」
「えぇ、ランタンのオイルの予備と木彫り細工というのを見せて欲しいんですが」 「あら、うちに木彫り細工を置いているなんてよく知ってたね」 「さっき宿屋に行ってそこの主人に聞きました」 「あぁ、ランブルさんにね。オイル瓶なら2日用と4日用があるよ。木彫り細工なら向こうの棚に置いてるから自由に見てくれ」 「ありがとう」言われた通り棚の方へ向かうと大小様々な木彫り細工が置いてあった。
ベッドやいすのような家具のミニチュアやリスやクマのような動物を模したものなど。 俺には審美眼などないがそれでもその細工は精巧なものに見えた。「あなたの細工物をロンデールの商人が時々仕入れに来ると聞いたんですが、その時はどんなものが良く買われているんですか?」
「ん?もしかしてあんたも商人かい?あぁまぁ、確かに好事家には見えないか。そうだね、その人はよく家具のミニチュアを買っていくよ。贔屓にしている貴族様が気に入ったらしくてね」なるほど。売り先が決まっているわけか。俺にはそんな伝手はないし参考にはならないな。だが、これだけのものなら町で売れる可能性は十分あると思う。
そう考えなるべく荷物にならなそうな小動物の細工物をいくつかと日持ちしそうな食糧を選んで店主に聞いた。「2日分のオイルとこの細工物、あと食糧で合わせていくらになりますか?」
「え~っと、全部で400リムだね。端数はおまけしておくよ」思ったよりもだいぶ安い。うまく町で売り先さえ見つけられば、かなりの利益が見込めそうだ。
道具屋の時と同様に複数の品を見せて希望するものを選んでもらい280リム分くらいの薬や日用品で取引を済ませることができた。 と、店を出た辺りで変化に気づく。 スキルのレベルが上がったらしい。早速確認してみる。--------------------------------
スキル:わらしべ超者Lv2 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。 自分の持ち物と各種サービスを交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。
スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------
各種サービス?またずいぶん大雑把な説明だな。。
普通に考えると接客業だろうか? 飲食や医療のような・・・待てよ?もしかして宿泊も含まれるか? ・・・うん。そんな気がする。 はっきり説明がないのがもどかしいがとりあえず試して損はない。 そう結論付けて再度宿屋に戻ることにした。「ん?さっきの商人さんじゃないか。商売は上手く言ったかい?」泊まるだけの稼ぎがあったかと聞きたいのだろう。 生憎商売ができても金銭は手に入らないのだが。「そのことなんですが、やはり薬での支払いはできませんか?」 「あ、いやさっきは悪かったな。もちろん構わないよ。貰った薬の効き目も良かったしな。とりあえずそれで1泊分にしておくよ。追加はどうする?と言ってもこの村に長居するほど見るものもないと思うけどな」宿屋の主人はあっさりと前言を撤回した。その上先に渡した薬も代金に含めてくれるという。やはりスキルの影響があったということだろう。 何にしろこれで野宿は避けられそうだ。「そうですね。道具屋と雑貨屋は今日回ったし、次はロンデールに行ってみようかと思っているのですが」 「ロンデールか。まぁ、ここから次に向かうならそこか南のハイン村のどっちかだろうな」南にも村があるのかそっちの情報も聞いておきたいな。「とりあえず1泊で。あと良ければロンデールやハイン村のことについて教えて貰えませんか?」 「あぁ、良いぜ。ロンデールはこの辺だと大きめの町だな。近くにダンジョンの入り口があるから冒険者が結構多い。ダンジョン産のアイテムも出回るから商人ギルドもあるし商店も多いな。」ダンジョン。魔物が巣食う洞窟や遺跡のことだったか。現実味がないがやはりそういうものがあるんだな。なるべく近寄りたくないが。 商人ギルドには早めに行ってできるなら加入しておきたいな。知識によるとギルドカードは身分証にもなるようだし、横の繋がりを得られるのも重要だ。あとギルド発行の仕事を受けられたりもするんだっけ。・・・あれ?報酬って当然現金だよな?俺の場合どうなるんだろう? まぁ、そこも試してみれば分かるか。「ハイン村は大きな牧場があるのが特徴でな。ホワイトブルやフラワーシープなんかの牧畜をやってる。小さいが冒険者ギルドもあるぞ」ホワイトブルは草食で大きめの体をしている。肉は部位ごとに触感や味が異なりどれも美味しいらしい。 メスのホワイトカウの方はミルクが取れてそちらも美味しいらしい。 フラワーシープは花のように様々な色の体毛を持つ動物で貴族のドレスなどの材料として重宝されているらしい。 肉やミルクは日持ちが厳しそうだが毛糸なら取引に使えそうだな。「ハイン村には商人ギルドはないんです
村の入り口に着くとエリネアさんが一人で待っていた。(う~ん。口数も少ないし3人の中で一番話し掛け辛いんだよな。)とはいえ無視するわけにもいかない。 「お待たせしてすみません。他のお二人は?」 「・・・いえ、二人はまだ支度中です。もうそろそろ来ると思います」 「そうでしたか。そういえばミルドさんとエリネアさんはチームで活動されてるんですか?」 「・・・えぇ」一応答えてはくれるが、目はそらされているし避けられている気がする。呼び方などからそうかなと思ったが、やはり二人はチームで活動しているようだ。 そして会話が途切れる。(エリネアさんも話し掛けられたくないみたいだしおとなしく待つか)少しするとハロルドさんとミルドさんが戻ってきた。「いや~すみません。ついいつもの調子で話していたら遅くなってしまいました」 「いえいえ、お気になさらず」そうして、4人でロンデールに向けて出発したのだった。 出発してしばらくは平和そのもので特に何かに出会うこともなく順調に進んでいた。「リブネントに来るときもこの街道を通られたんですよね?危険な動物に遭遇したりはしましたか?」 「いえ、この辺では滅多に会うことはありませんよ。森の奥に行けば話は別でしょうが、街道にでて何かすれば狩られることは向こうも理解しているんでしょうね」 「そうですか。安心しました」 「ははっ。仮に出てきてもミルドさんとエリネアさんなら問題なく対処してくれます。お二人とも優秀な冒険者ですから」 「あまり煽てないでくれ。俺たちはまだCランクだ。」 「いえいえ、その歳でCランクは十分優秀ですよ。本来ならこんな危険の少ない街道の護衛を依頼するべきではないのでしょうが・・・」 「前にも言ったが気にしないでくれ。あなたは命の恩人だ。護衛料も十分な額を貰えているし問題はない」 「と、こんな感じでしてね。私としても信頼のおける人間に護衛して貰いたいというのもあってついつい甘えてしまっているんですよ」なるほど。これまでのやり取りでこの3人には何か連帯感の様なものを感じていたが、そういう理由があったのか。 ミルドさんが言ったCランクというのは冒険者ギルドのランクのことだろう。A~FランクまでありAが一番高いらしい。Cランクということは中堅の上の方くらいになるのだろうか。「命の恩人ですか。ちなみ
夜の番はミルドさんとエリネアさんが交代で行ってくれることになった。 自分もそのくらいは手伝いたいと提案はしてみたのだが、一晩くらいなら問題ないので休んでおいてくれとやんわり断られてしまった。 まぁ、二人からすれば急に増えた人間に任せられないというのは当然かもしれない。ハロルドさんは馬車の中で休むようだ。 俺も焚火の側に厚手の敷物を敷いて寝ることにした。 ミルドさんからテントを使っても良いと言われたがさすがにそこまで甘えるわけにはいかない。幸いにも夜でも寒いというほどにはならなかったので、寝るのに支障はなかった。 次の日、物音で目が覚めるとミルドさんがテントを片付けようとしているところだった。「おはようございます」 「あぁ、起きたか。おはよう。朝食を食べたら早々に出発しよう」 「分かりました」見るとハロルドさんも起きていて朝食と思われるパンと飲み物をもってきていた。 そして各自朝食を取るとロンデールに向けて出発する。 道中時間もあったので商業ギルドのことをハロルドさんに聞いてみることにした。「そういえば、ロンデールには商業ギルドがあると聞いたのですが、ハロルドさんは所属されているんですよね?」 「えぇ、もちろん。ギルドの所属有無の差は大きいですからね。年会費は必要ですが、ギルド所属であれば入国、入町税の軽減やギルドで扱っている商品の融通など色々な恩恵がありますからね。まぁ、私の場合は他国まで仕入れに行くことはあまりありませんが」 「実は俺はまだ所属していないのですが、所属する際にはどのような手続きが必要なのでしょうか?」 「そうだったんですか。なに、難しいことはありませんよ。登録情報の記載と登録金を支払うだけです。年会費についても各町にあるギルドであればどこでも支払いが可能ですし」ふむ。思ったより手続きは簡単なようだ。だが、まったく審査がないのは大丈夫なのだろうか?「なるほど。ですが、それだと恩恵目当てに商人以外の人が登録したりもするんじゃないですか?」 「そうですね。ですので、年会費を払う際に実績の確認があるんです。商人ギルドからの依頼やギルドを介した取引など一定の実績がなかった場合は権利を剝奪されて、何らかの理由がないと再登録はできなくなります。 またそういう情報は他のギルドにも連携されるので本人の立場が厳しいものになります
目が覚めると一面が真っ白な世界だった。 「なんだここは?俺は何でこんなところに?」 明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。 目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。 自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。 大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。 分からないのは直近の記憶だけのようだ。「そこの人間」そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。「誰だ?」 「こっちだ」声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。 そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」 「お前を呼んだのは私だ」 「し、しゃべった!?」再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。 誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。「納得したか。では、本題に入ろう」 「本題?」 「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」 「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」 「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」 「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」 「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」 「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」 「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」 「輪廻の均衡ってなんだ?」 「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡
「う、うぅん」目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。 神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。 次に持ち物なども確認してみる。 服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。 持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。 どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。 ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。 スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。 早速スキルの内容を確認してみる。-------------------------------- スキル:わらしべ超者Lv1 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。 スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------・・・・・・は? 信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。 金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか? いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。 この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。 それになんだ交換レートは好感度により変動するって! いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ? スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。 何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。 手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。 そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。 幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。 スキルはともかく
夜の番はミルドさんとエリネアさんが交代で行ってくれることになった。 自分もそのくらいは手伝いたいと提案はしてみたのだが、一晩くらいなら問題ないので休んでおいてくれとやんわり断られてしまった。 まぁ、二人からすれば急に増えた人間に任せられないというのは当然かもしれない。ハロルドさんは馬車の中で休むようだ。 俺も焚火の側に厚手の敷物を敷いて寝ることにした。 ミルドさんからテントを使っても良いと言われたがさすがにそこまで甘えるわけにはいかない。幸いにも夜でも寒いというほどにはならなかったので、寝るのに支障はなかった。 次の日、物音で目が覚めるとミルドさんがテントを片付けようとしているところだった。「おはようございます」 「あぁ、起きたか。おはよう。朝食を食べたら早々に出発しよう」 「分かりました」見るとハロルドさんも起きていて朝食と思われるパンと飲み物をもってきていた。 そして各自朝食を取るとロンデールに向けて出発する。 道中時間もあったので商業ギルドのことをハロルドさんに聞いてみることにした。「そういえば、ロンデールには商業ギルドがあると聞いたのですが、ハロルドさんは所属されているんですよね?」 「えぇ、もちろん。ギルドの所属有無の差は大きいですからね。年会費は必要ですが、ギルド所属であれば入国、入町税の軽減やギルドで扱っている商品の融通など色々な恩恵がありますからね。まぁ、私の場合は他国まで仕入れに行くことはあまりありませんが」 「実は俺はまだ所属していないのですが、所属する際にはどのような手続きが必要なのでしょうか?」 「そうだったんですか。なに、難しいことはありませんよ。登録情報の記載と登録金を支払うだけです。年会費についても各町にあるギルドであればどこでも支払いが可能ですし」ふむ。思ったより手続きは簡単なようだ。だが、まったく審査がないのは大丈夫なのだろうか?「なるほど。ですが、それだと恩恵目当てに商人以外の人が登録したりもするんじゃないですか?」 「そうですね。ですので、年会費を払う際に実績の確認があるんです。商人ギルドからの依頼やギルドを介した取引など一定の実績がなかった場合は権利を剝奪されて、何らかの理由がないと再登録はできなくなります。 またそういう情報は他のギルドにも連携されるので本人の立場が厳しいものになります
村の入り口に着くとエリネアさんが一人で待っていた。(う~ん。口数も少ないし3人の中で一番話し掛け辛いんだよな。)とはいえ無視するわけにもいかない。 「お待たせしてすみません。他のお二人は?」 「・・・いえ、二人はまだ支度中です。もうそろそろ来ると思います」 「そうでしたか。そういえばミルドさんとエリネアさんはチームで活動されてるんですか?」 「・・・えぇ」一応答えてはくれるが、目はそらされているし避けられている気がする。呼び方などからそうかなと思ったが、やはり二人はチームで活動しているようだ。 そして会話が途切れる。(エリネアさんも話し掛けられたくないみたいだしおとなしく待つか)少しするとハロルドさんとミルドさんが戻ってきた。「いや~すみません。ついいつもの調子で話していたら遅くなってしまいました」 「いえいえ、お気になさらず」そうして、4人でロンデールに向けて出発したのだった。 出発してしばらくは平和そのもので特に何かに出会うこともなく順調に進んでいた。「リブネントに来るときもこの街道を通られたんですよね?危険な動物に遭遇したりはしましたか?」 「いえ、この辺では滅多に会うことはありませんよ。森の奥に行けば話は別でしょうが、街道にでて何かすれば狩られることは向こうも理解しているんでしょうね」 「そうですか。安心しました」 「ははっ。仮に出てきてもミルドさんとエリネアさんなら問題なく対処してくれます。お二人とも優秀な冒険者ですから」 「あまり煽てないでくれ。俺たちはまだCランクだ。」 「いえいえ、その歳でCランクは十分優秀ですよ。本来ならこんな危険の少ない街道の護衛を依頼するべきではないのでしょうが・・・」 「前にも言ったが気にしないでくれ。あなたは命の恩人だ。護衛料も十分な額を貰えているし問題はない」 「と、こんな感じでしてね。私としても信頼のおける人間に護衛して貰いたいというのもあってついつい甘えてしまっているんですよ」なるほど。これまでのやり取りでこの3人には何か連帯感の様なものを感じていたが、そういう理由があったのか。 ミルドさんが言ったCランクというのは冒険者ギルドのランクのことだろう。A~FランクまでありAが一番高いらしい。Cランクということは中堅の上の方くらいになるのだろうか。「命の恩人ですか。ちなみ
「ん?さっきの商人さんじゃないか。商売は上手く言ったかい?」泊まるだけの稼ぎがあったかと聞きたいのだろう。 生憎商売ができても金銭は手に入らないのだが。「そのことなんですが、やはり薬での支払いはできませんか?」 「あ、いやさっきは悪かったな。もちろん構わないよ。貰った薬の効き目も良かったしな。とりあえずそれで1泊分にしておくよ。追加はどうする?と言ってもこの村に長居するほど見るものもないと思うけどな」宿屋の主人はあっさりと前言を撤回した。その上先に渡した薬も代金に含めてくれるという。やはりスキルの影響があったということだろう。 何にしろこれで野宿は避けられそうだ。「そうですね。道具屋と雑貨屋は今日回ったし、次はロンデールに行ってみようかと思っているのですが」 「ロンデールか。まぁ、ここから次に向かうならそこか南のハイン村のどっちかだろうな」南にも村があるのかそっちの情報も聞いておきたいな。「とりあえず1泊で。あと良ければロンデールやハイン村のことについて教えて貰えませんか?」 「あぁ、良いぜ。ロンデールはこの辺だと大きめの町だな。近くにダンジョンの入り口があるから冒険者が結構多い。ダンジョン産のアイテムも出回るから商人ギルドもあるし商店も多いな。」ダンジョン。魔物が巣食う洞窟や遺跡のことだったか。現実味がないがやはりそういうものがあるんだな。なるべく近寄りたくないが。 商人ギルドには早めに行ってできるなら加入しておきたいな。知識によるとギルドカードは身分証にもなるようだし、横の繋がりを得られるのも重要だ。あとギルド発行の仕事を受けられたりもするんだっけ。・・・あれ?報酬って当然現金だよな?俺の場合どうなるんだろう? まぁ、そこも試してみれば分かるか。「ハイン村は大きな牧場があるのが特徴でな。ホワイトブルやフラワーシープなんかの牧畜をやってる。小さいが冒険者ギルドもあるぞ」ホワイトブルは草食で大きめの体をしている。肉は部位ごとに触感や味が異なりどれも美味しいらしい。 メスのホワイトカウの方はミルクが取れてそちらも美味しいらしい。 フラワーシープは花のように様々な色の体毛を持つ動物で貴族のドレスなどの材料として重宝されているらしい。 肉やミルクは日持ちが厳しそうだが毛糸なら取引に使えそうだな。「ハイン村には商人ギルドはないんです
金がない。というか金があってもたぶん払えない。 死ぬ前に持っていた向こうの通貨は宝石に変わっていた。 それに宿代の支払いは恐らく商取引に該当するだろう。(・・・どうすんだこれ?宿屋もだが食事や道具の補充などあらゆる支払いができないってことだよな?・・・物々交換?宿代や食事代の支払いを?食事はともかく宿泊は物じゃないよな。家自体を交換して貰うことはできるかもしれないが、今の持ち物じゃ流石に足りないだろう。)考えれば考えるほど今後に不安が募っていくが、現状通貨を得る方法がない以上できることを試してみるしかないか。 そう考えて食堂兼宿屋となっている建物に入る。「いらっしゃい。外のお客さんとは珍しいな」中に入ると主人と思われる男が声を掛けてくる。「あ、あぁ。食事と宿を頼みたいんですが」 「1泊20リム、食事付きなら30リムだ」 「あ~その、支払いなんだがこれでお願いできますか?」そう言いつつ、小粒の宝石を出してみる。「いや、そんな物出されてもな」 「そ、そうですか。俺は商人なんですが、さっき門番の人にこの村では薬が不足気味だと聞きました。そこで、この薬では宿代の代わりにはならないでしょうか?」そういって今度は何種類かの薬を出してみる。「いや、薬が不足気味なのは確かなんだが・・・やはり現金で払ってもらわないと困るな」先ほどの宝石よりかなり興味は引けたようだがやはり結果はダメだった。 物での支払いを拒否しているのか、スキルの影響で拒否されているのか判断が難しいが、間があったことから考えると後者の可能性の方が高そうな気がする。 仕方がないので、別の方法を試してみることにする。「分かりました。。変なことを聞いてすみません。これは詫びとして取っておいてください」そう言って主人の目線から欲していたと思われる薬を渡す。「え?いいのか?いやでも流石に悪いような・・・」 「いえいえ。当てができたらまた来ます」そう言ってそのまま宿屋を後にした。 もちろん意味もなくタダで薬を渡したわけではない。 主人に先に利益を齎すことで好感度を上げておき、相手の好意で1泊泊めて貰えないかと考えたのだ。最悪食堂の隅を借りれるだけでも外で野宿よりはマシだろう。 何だか商売の裏道や抜け道を探しているようで多少の罪悪感があるが身の安全には代えられない。 まぁ、こ
「う、うぅん」目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。 神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。 次に持ち物なども確認してみる。 服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。 持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。 どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。 ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。 スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。 早速スキルの内容を確認してみる。-------------------------------- スキル:わらしべ超者Lv1 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。 スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------・・・・・・は? 信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。 金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか? いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。 この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。 それになんだ交換レートは好感度により変動するって! いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ? スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。 何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。 手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。 そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。 幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。 スキルはともかく
目が覚めると一面が真っ白な世界だった。 「なんだここは?俺は何でこんなところに?」 明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。 目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。 自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。 大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。 分からないのは直近の記憶だけのようだ。「そこの人間」そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。「誰だ?」 「こっちだ」声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。 そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」 「お前を呼んだのは私だ」 「し、しゃべった!?」再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。 誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。「納得したか。では、本題に入ろう」 「本題?」 「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」 「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」 「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」 「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」 「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」 「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」 「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」 「輪廻の均衡ってなんだ?」 「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡